ローマ人の物語〈21〉危機と克服〈上〉 (新潮文庫)



ローマ人の物語〈21〉危機と克服〈上〉 (新潮文庫)
ローマ人の物語〈21〉危機と克服〈上〉 (新潮文庫)

ジャンル:歴史,日本史,西洋史,世界史
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頭をすげかえ続けた1年間の混乱

ネロ自死後に皇帝に名乗りを上げた(というよりも成り行きで手を上げた観が強い)ガルバ。それ以降、たった1年間でローマは3回も皇帝を変えることになります。この間、事態は、それぞれ国境警備を任されていた「ライン軍団」と「ドナウ軍団」の戦闘、そのことに起因して発生する怨恨と報復(これは皇帝ヴィテリウスの愚かな施策による)、そしてローマ市街戦へと発展していきます。
それにしても印象的なのは、平凡な、否、その地位にふさわしい能力をもたない人間が帝政のトップにつくことの恐ろしさ。そして、逆に、帝政という、いわば皇帝の能力によって国の行く末が左右される仕組みでありながら、皇帝にその能力がないなら頭をすげかえればいいと冷静に見極めていた市民たちの反応です。ローマで市街戦が勃発しても、殺し合いが行われるなかで、市民たちは居酒屋で盛り上がり、娼婦も客をとっていたといいます。
混乱の極みであった1年間はまさに「危機」。これに対し、新皇帝ヴェシパスアヌスがいかなる施政を行うのか。次巻での「克服」の部分に興味をそそられます。
トップの大切さ

一年間で3人もの皇帝が死んで入れ替わる、ローマ帝国としては異質の時代。
皇帝ガルバを評して、タキトゥスが「よき資質に恵まれなかったというよりは、悪しき資質が全くなかったというにすぎず、要するに平凡な出来の人物」といっているのが面白い。要するにまともなだけじゃ政治はやっていけないですよ、とそういうことか・・・
平凡な才能のトップが次々と出てくるだけに著者の指摘も凄みを増す。「裏切りは恐怖よりも軽蔑から」「トップというのは、勝負がかかっている場には必ず自らが出向く必要がある」という言葉に、勝手に我が身を振りかえざるをえなくなってしまう。

感情による時代の動き

皇帝ネロの死の直後、1年間で3人の皇帝が代わる混乱期を描く。
当書はその混乱期の人の心の動きと時代の動きをうまく掴み、描き出している。
読んでいていて面白いのは、名誉、意地、懐柔策など、人の感情に関することで混乱の羅針盤が大きく左右に振られていくことだ。たとえ巨大な帝国であっても、人が作ったモノは人の感情で動く。それは人が感情の生き物だからだろう。結果、感情の機微を知らなかった者は、権力や権威でより優位でありながらも倒れていく。そして、最後に残ったのは感情の機微をわきまえた常識人ヴェスパニアヌスであった。これは現代社会、とくに企業にも当てはまることかもしれず、興味深い。

ローマ帝国の骨格

 ローマの歴史も 久しぶりに 大混乱の時期を迎える。一年間に皇帝が3名も変るというのもたいした話。塩野七生自身が 久しぶりのローマの混乱を 幾分苦笑しながらも 何となく楽しんでいるかのような書きぶりである。

 但し、これが大事なのだと思うのだが、それでも結果的にローマ帝国はその巨大な版図を維持していったという歴史の事実の重さも大したものである。カエサルが構想し アウグストゥスが構築し ティベリウスが 徹底した ローマ帝国の骨太な構造の強さ。それに いかに塩野七生が感動しているかも 彼女の闊達な文から滲み出てきている。また 組織を考える際にも大変勉強になる。我々サラリーマンが日々直面している問題でもあるのだ。誠に 人間のやることは変わりない。

 それにしてもローマ帝国は2000年後に 塩野七生というカリスマ的な語り部が登場したことに感謝すべきである。彼女がいなかったら 我々はローマ帝国なぞは 一部の歪曲された映画で見る程度だったと思う。こんな面白い歴史を知らずに終わったら 本当に勿体無かった。
皇帝ネロの自死がもたらした哀しみの1年を描く

神帝アウグストゥスの最後の後継者であったネロが死んだあと、帝政ローマは迷妄の袋小路に叩き落されます。血縁者が皇帝を受け継ぐというシステムの破綻。ではどのような人物が皇帝たる存在にふさわしいのか。はたまた帝政という政体に限界が見えてきたのか。さまざまな難問を抱える中で1年のうちに皇帝が3人も入れ替わるという異常事態が発生します。進むべき方向性を見失ったとき、好むと好まざるとにかかわらず、ローマ人たちは内乱への道へ到るしか方途はなかったのか。塩野七生は冷静な視線でターニングポイントを列挙しながら、狂った歯車の回転を綴っていきます。性善説、性悪説どちらが正しいのか分かりませんが、本編の終盤、希望の光がうかがえます。人間はただ愚かなだけではないのです。



新潮社
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