ローマ人の物語〈2〉― ハンニバル戦記



ローマ人の物語〈2〉― ハンニバル戦記
ローマ人の物語〈2〉― ハンニバル戦記

ジャンル:歴史,日本史,西洋史,世界史
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最高に面白く魅力的な教本である

古代ローマが好きな人にとって非常に面白い読み物です。カンネ、ザマに代表されるの会戦スペクタクルを堪能できるは言うに及ばず、ローマ内外の基本的な政治政策、つまりローマ市民と同盟都市(国)・属州の人々との権利・義務の違いは押えておかなければいけない大きなポイントであった。戦後の講和条約はこの理念に基づいており、パックスロマーナは決してローマ人の利益を優先したわけではないということだ。また、ローマは他国の優れた文化、芸術を尊重しており、ローマ人の言語であるラテン語を他の民族に強いることをしないばかりか、ギリシャ語とのバイリンガルに努めたのである。時代は紀元前3世紀半ばから100年の話、散散にローマを悩ませた”ハンニバル”であったが、結果的にローマに戦略を伝授し、スキピオとその後に続く執政官をして領土拡大に貢献せしめたこととなった。個個の登場人物の性格と功績を織り交ぜながら、”戦争は起こるのが諦観”であった時代の国々の繁栄と没落のお話は進むのである。
ローマ人を通じて人間を考察しているという意味で人間学の本です。

 イタリア半島を統一したローマ人は、地中海の強国・カルタゴと長期に渡る戦争に突入します。ポエニ戦役ですが、第一次と第二次とでは随分と内容が異なります。特に第二次ポエニ戦争はカルタゴの将・ハンニバルの独壇場です。本書のタイトルが「ハンニバル戦記」であることも十分に頷けます。

 本書の帯には「戦争は、ありとあらゆる人間の所行を際立たせる」とありますが、読後に改めてこの言葉を考えさせられました。第一・二次ポエニ戦役には60数年を費やすのですが、塩野女史の筆によるその間のローマ、カルタゴの姿は一読の価値があります。その姿は時に現代の我々の姿に重なります。そのため、古代の英雄に対する塩野女史の指摘が目を開かせることが多々あります。

 「天才とは、その人だけに見える新事実を、見ることのできる人ではない。誰もが見ていながらも重要性に気づかなかった旧事実に、気づく人のことである(P.173)」・・・マケドニアのアレクサンダーは騎兵に着目し、当時の戦術を覆しました。あぶみが発明される前ですから、物凄いことです。

 「年齢が、頑固にするのではない。成功が、頑固にする(P.267)」・・・ハンニバルと並ぶローマの名将スキピオがハンニバルの本拠地・スペインへの派兵とその指揮権を求めた際のファビウス・マクシマスへの評です。成功者となった老人は好々爺になるのは難しいかもしれません。

 「優れたリーダーとは、優秀な才能によって人々を率いていくだけの人間ではない。率いられていく人々に、自分たちがいなくては、と思わせることに成功した人でもある(P.286)」・・・第二次ポエニ戦役中、16年間もハンニバルに兵たちは従いました。カルタゴ軍の兵(ガリアの傭兵は除く)はその間、故郷に帰れなかったのですから、ハンニバルがどういうリーダーだったかは非常に気になります。
ハンニバルの物語

このシリーズはローマ人の物語であるが、この章はハンニバルの物語と言ってもいい。なにしろハンニバルのアルプス越えは歴史上の史実としてもそうだが、それ自体が物語として語られるほど有名な逸話だ。私はこの話を最初に聞いたときは小学生の頃だったが、あまりの面白さに現実と非現実の境目にある出来事のように感じたものだ。それこそ、当時見ていた宇宙戦艦ヤマトやガンダムのように、まるでこのことは本当に歴史上の現実にあったのか、わからなくなってしまったぐらい無味乾燥な歴史とつなげることが出来ないほどぶっ飛んで面白い話だったのだ。

今でも、そのときに読んだアルプス越えの挿絵が記憶に浮かぶ。アルプス越えを行っているハンニバルの軍の列の一つが象、荷馬車、兵士ともどもアルプスの谷間に落ちていくシーンだった。

そして、改めてローマ人の物語2を読んでどうだったかと言えば、当時考えていたことよりもはるかに困難で冒険的なハンニバルの行動にますます印象を深くしてしまった。

そして、当時は抱かなかった感想として、あの頃ハンニバルだけがローマの大国化を予想していたのではないかと言うのが追加された。そうでなければ、あれほど執拗にローマの解体に力を尽くしたハンニバルの動機が理解できない。
そして、おそらくは当時はローマの将軍としてしか印象がなかったスキピオの活躍。
やはり歴史は大変面白い。
なるほど、十八番

 自分は戦いを書くのが好きだと、著者が言っていたのは「海の都の物語」のことだったでしょうか、ちょっと失念しましたが、なるほど戦いのシーンの連続であるこの本では、著者の筆は躍りに躍っています。ハンニバルの活躍する、第二次を中心に、ポエニ戦争全体を内容としていますが、日本語で読めるものでは、これ以上細かいものは無い様に思います。個々の戦闘の解説はもとより、ローマ側の将軍の経歴など、他の関係のない事柄で出てくる人の父親が、この戦闘で従軍していたのか、などと歴史が見事に連なっていることを感じさせてくれる著者のやり方はまったく憎い限りです。
 しかし、この本で一番の見所は、ハンニバルはじめ、フェニキア人やギリシア人、先進民族と交流を持つローマ人が、徐々にその純朴さを失って行く様と、逆に小ずるく立ち回った先進民族の方は、ローマ人の愚直さの前に墓穴を掘っていくという様でしょう。歴史をプロセスから見ると言う著者の言葉どおり、まさに一つ一つの事実から、ローマの勝利の要因と、これから来るであろう混乱の理由が、具体的な答えを提示されるでもないのに見て取ることが出来て、まるでジグソーパズルのように、読んだ後にはちゃんと納得できる像が出来ているのです。まったく唸らずにはおれません。
 結論先行で、決め付け型の歴史にうんざりしている方や、科学的という名の下に、歴史は人の歩みであることを無視し去っている歴史叙述に嫌気がさしている方は、ぜひ読まれるといいと思います。塩野七生のファンにならずとも、歴史のファンにはなってしまうでしょう。
システム VS. 強力な個性

自分は、このシリーズ全体には辛い評価をしがちである。
著者が書きたいのは、単なる歴史読み物なのか、きちんとした歴史論文なのか、今ひとつわからないからだ。自分にとって、「帯に短し、襷に長し」という言葉は、本シリーズにぴたりと当てはまる。

ただ、軍事に明るい人間として、本書には素直に良好な評価を与えたい。

なぜならば、多くの普遍的な軍事的問題を含むにもかかわらず、ポエニ戦争に関する読みやすい本は日本にはほとんど無く(全く無いとは言わないが)、本書は全体的に優れた文章で記されたポエニ戦争の通史本であるからだ(日本で唯一と言えるかもしれない)。

特に、政治・外交と軍事との関係、軍事システムの質的な差異、政治のリーダーシップと軍事のリーダシップのあり様…そこら当たりを考察するに当たっての材料が、見事に記述されている。

さらに、軍事に興味を持つ人間であるならば、システム vs. 個人という、後世の戦争においても普遍的に現れる命題について手際よく記されていると思うだろう。

挙国一致体制をつくり易く、しかも国民全般に軍事に関する知識と覚悟の水準が高い、優れた軍国主義国家である共和制ローマ。
それに対するのは、ハンニバル個人の軍事的天才に頼らざるを得ないカルタゴ。
軍事システムに優るローマと圧倒的な天才ハンニバルという第2次ポエニ戦争の基本的な構図を、巧みに描ききっていると思う。

若干、自分の知っている史実と異なるところもある(カンナエの会戦の経過など)が、それらを突つくことは、重隅にすぎるだろうか。

ともあれ、読むべき一冊である。



新潮社
ローマ人の物語〈3〉― 勝者の混迷
ローマ人の物語〈1〉― ローマは一日にして成らず
ローマ人の物語〈4〉― ユリウス・カエサル-ルビコン以前
ローマ人の物語〈5〉― ユリウス・カエサル-ルビコン以後
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ローマ人の物語〈17〉悪名高き皇帝たち(1) (新潮文庫)

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